考えていくうちに忘れる

 前回は感覚記憶について述べました。感覚記憶は記憶する最初の段階ですが、この
段階で間違えて記憶したり、「選択」が弱かったりしたらその後の過程は全て無駄となっ
てしまいます。当初に間違えて記憶(通常は見間違い)する例は漢字の練習の最初に
見間違い「造字」して覚えてしまうことです。これはしっかり見る訓練を根気よく行うこと
=心がけとして行えば克服することはできると思います。もう一つの感覚記憶の「選択」
が弱い場合、例えば以下のようなことがおこります。

 ある中学生が直方体の容積に関しての文章問題を解いていました。その問題は底面
の一辺をXとすれば底面積がXの関数となり、それに定数の深さをかけると容積になると
いうものでした。中学生は底面積をXの関数として表すことに注力し答えを出しました。し
かしその答えは違っていました。どうして違うのか釈然としない中学生は私に質問に来
ました。底面積をXの関数として表すところは完璧にできていました。そしてそれを答えと
していたのです。求めているのが容積であり、深さが定数としてあるということを全く忘れ
てしまっていたようです。

 この話は問題をよく読まない不注意として片付ければそれですむかもしれません。もう
少し記憶・感覚記憶という点から掘り下げると、次のようになります。問題を読むことによ
って容積・高さ・底面積はXの関数ということは感覚記憶として把握しているはずですが、
多くの感覚記憶から「選択」することが弱いとXの関数を求めている間にそれらの項目は
記憶から消えてしまいます。これは数学の問題というより感覚記憶の「選択」を強化する
ことが求められます。多くの問題を解いていく過程でも『「選択」の強化』は可能ですが本
人の負担感が重く効率的ではないようです。「選択」の強化を行うのであれば、必要とす
る項目にマークを付ける・必要な内容を図化する等を身に付けることを「選択」するため
の予備行動として体得することが最も近道のようです。(問題に対して指差し確認などを
行うのも面白いかもしれません)更に言及すれば、図の完成・立式するところまで感覚記
憶から「選択」した必要事項を覚えていることができれば「選択」の強化はなし得たと考え
られます。この状態になった中学生に「どういう問題だったか説明してみて」というとちゃ
んと説明できるようになっています。

 数学の文章問題が苦手という生徒たちの多くに共通の特徴があります。図解すれば
わかりやすいのに図解しない(図解の方法を知らないのかもしれません)立式を明確に
しないですぐに計算にはいってしまう。式を書かない。どの項目も行えば感覚記憶の
「選択」を強化することができるのにしていません。そして彼らに文章問題を説明してもら
うと多くは不完全にしかできません。やはり感覚記憶の「選択」が弱いままだからのよう
です。

 感覚記憶の「選択」を強化するのに数学の文章問題は最適です。文章から必要事項
をちゃんと抽出する(「選択」する)ことができないと先に進めませんし、答えもでません。
数学の文章問題を行うことを感覚記憶の「選択」の強化として行うのはいかがでしょう
か。そして中学生が小学生の文章問題を解いていくことでも有効です。中学生が気軽に
取り組んでいくことができるかもしれません。