「漢字を覚える」を分解すると

 漢字を覚える勉強は勉強方法の基本を多く含んでいます。小学生が漢字を覚える覚え

方を順を追ってみましょう。

①まず、お手本をよく見る。

②①で認識した漢字を一度覚え、ノートに何回か書く。

③最後に漢字の読み仮名だけを見て漢字が書けるか確認する。

 多くの方々がやってこられた勉強方法と思います。これを脳の記憶という仕組みから見

直していくと以下のようになります。

①お手本をよく見る。(漫然と見ているときもその視覚から入ってきた刺激は感覚記憶とし

て一時的に貯蔵される。)

②①で認識した漢字を一度覚え、(「選択」した記憶を短期記憶へ送る。)

 ノートに何回か書く(同じ動作を繰り返し、短期記憶の中の記憶を長期記憶へ「転送」し

長期記憶へ「記銘」「貯蔵」する。)

③最後に漢字の読み仮名だけを見て漢字が書けるか確認する。(長期記憶に「貯蔵」され
た記憶を「想起」する)

 長期記憶にある記憶内容が「想起」できることをもって「覚えた」という状態になります。

 感覚記憶は見たり感じたことを取り敢えず記憶しておくことなので、ほとんどの記憶は数

秒で消えてしまいます。その中で重要と思われる物(または尋常でない、驚きの感情等と

共にある物)は「選択」され短期記憶に送られます。

 短期記憶で覚えていられる記憶の塊は七つまでのようです。とても多くのものを記憶する

ことはできません。また短期記憶は意識を緩めたり、他の情報が入ってきたり、別の行動

をおこなってしまうと簡単に消えてしまいます。通常では短期記憶は大変容量が小さく保

持時間も短いものです。

 短期記憶で、記憶を保持している時間がある程度長くなり、いろいろな補強情報(由来

等の理解、こじ付け等)とともに記憶することができるようになると長期記憶に転送されま

す。長期記憶ではほぼ半永久的に保持できるとともに、記憶できる容量はほぼ無制限で

す。

 以上みてきたように、記憶する工程は何段階にもわかれています。物覚えが悪いといっ

てもどの工程で問題が発生しているのかよく確認をしないと、見当違いの指導を行ってい

る場合もあると思います。例えば感覚記憶は「見た通り、聞いた通りの記憶」ということに

なるのですが、漢字の書き取りをしているとお手本通り書いていない(造字して)場合も見

受けられます。「よく見て書いて」の指導は感覚記憶より短期記憶の「選択」へ働きかけな

のかもしれません。また先生から「注意」などを受けるというのも短期記憶への記憶となり

ます。しかしそこでの保持時間や補強が少ないと「注意」も霧散してしまうということのよう

です。指導する方も注意して事に当たらなければなりません。

 もっとも問題となるのは短期記憶から長期記憶へ「転送」し、「記銘」「貯蔵」する工程と長

期記憶に保存されている情報を「想起」することのようです。天賦の才能を持っていた人以

外は例外なく皆この辺で苦労しているのではないでしょうか。